今回は不動産取引とは直接関係ないのですが、私自身が実体験で感じた会社倒産について触れてみたいと思います。会社という組織は収益力や財務状況が悪化すると、最終的には「倒産」せざる負えない状況になる時があります。

倒産にはいくつか手続きの種類があり、会社を残せる可能性もあるんです。

1950年に創業した父が経営していた建材商社は45億円の負債を抱え、2010年に倒産してしまいました。

当時の記事には「景気低迷による公共工事の減少が痛手となり販売は低調に推移すると、工場設備等への投資による多額の金融債務が資金繰りを逼迫。2009年からは支店統廃合や人員削減等のリストラ策を実施するも状況は好転せず倒産」と書かれていました。

あのころの父を救うことはできませんでしたが、少しでも「倒産」が頭によぎった経営者の方のお力になりたいと思い、今回の記事をアップしています。

倒産を選択する前にできることもありますので、大切な会社を守れるよう知識を持って対応していただきたいと思います。

それでは「会社の負債を払えなくなった場合にとるべき対処方法」を解説します。

1.倒産とは

会社の「倒産」とは、負債の支払が困難となって事業継続が不可能になったり継続できないおそれが発生したりした状況です。

倒産は一般用語であり、1つの明確な状態ではなく広い意味合いを持ちます。以下のような状況はすべて「倒産」の1種です。

  • 負債を返済できなくなり、銀行不渡りを2回出してしまった
  • 金融機関と交渉して私的整理を行った
  • 裁判所に民事再生手続きを申し立てた
  • 裁判所に破産手続きを申し立てた
  • 会社更生や特別清算を行った

特に法的な手段をとっていなくても「負債を返済できなくなった」だけで「倒産」といわれるケースもあります。

倒産状態になったからといって、必ず会社がなくなるわけではありません。努力や工夫により息を吹き返せる可能性もあります。

以下で会社をつぶす前にできることをみていきましょう。

2.倒産する前にできること

銀行借入金などを払えなくなって会社が倒産に近い状態に陥ったら、以下のような対応を検討してみてください。

2-1.資産売却

企業の所有する資産を整理することで、財務状況を向上させられる可能性があります。使用していない不動産や投資用の株式などがあれば、売却して返済に充てましょう。

2-2.事業の縮小

急速に事業を拡大しすぎた場合、不採算部門が目立っている場合などには事業縮小を検討しましょう。業績の良い事業に集中することで倒産を避けられるケースがあります。

2-3.リストラ

いったん正社員として雇用した従業員は簡単には解雇できませんが、倒産の危機にある場合にはリストラ(整理解雇)を考える方もいるでしょう。

断腸の思いで「リストラ」をした父は、「単純なリストラでは意味がない。うまくいってない事業の根本の原因を考えずに人を切っても事業の建て直しは難しい。慌ててリストラして、固定費を削ったところで業績が上がるわけでない。」と話していました。

また、「リストラすることによって、不幸になる人が出てしまう。会社全体の士気も下がるので、その後、その会社が上手くいくかというとそう簡単なことではないようです。

大手の会社が工場を移設するために人員削減したり、部署の一部をうつしたりすることは、効果があるのかもしれませんが、中小企業の場合は訳が違う。事業そのものに問題がある場合が多いので、よく考えてからリストラの手続きをすべきだ。」とも言っていました。

リストラ以外のあらゆる方法を試してみたけれど会社の存続のために「リストラすることで問題解決できる可能性がある」と判断した場合は、公正に人員を選定しつつリストラの手続きを進めるのも方法の1つです。

2-4.事業や会社の売却(M&A)

事業や会社そのものを売却することで、倒産を避ける方法もあります。不採算部門を切り離して売却する方法もありますし、会社全体を吸収してもらう選択も可能です。

赤字や債務超過企業であっても、シナジー効果を感じてもらえる買い手企業が見つかればM&Aができるので、諦めずにM&A仲介会社等の専門家に相談してみてください。

2-5.リスケジュール

金融機関と交渉して、負債の返済を猶予してもらう方法です。支払金額を減額してもらっている間に経営状況を立て直せば、倒産を防げます。

3.倒産手続きの種類

さまざまな経営努力を行っても倒産を避けがたいケースもあるでしょう。ただ倒産にもいくつかの種類があり、会社を残せる方法も存在します。

倒産手続きには裁判所を利用しない「私的整理」と裁判所を利用する「法的整理」があるので、分けてみていきましょう。

3-1.私的整理

私的整理とは、借入先と個別に交渉して負債の支払計画を決め直す手続きです。借入先の金融機関と話し合い、支払可能な条件へ返済方法を変更してもらいます。

私的整理を行っても企業がなくなることはありません。きちんと決め直した計画通りに返済できれば営業を続けられます。社長が個人保証を行っていても、会社借入とともに条件変更すれば社長個人が破産する必要もありません。私的整理は一般的に「倒産」のマイナスイメージが薄く、風評被害が起こりにくいメリットもあります。

ただし私的整理を行うには、金融機関による合意が必要です。今後再生できる見込みが高い状況を説得的に示さないと条件変更には応じてもらえません。しっかりと事業計画書を作成し、条件を変更してもらえれば会社に将来があると理解してもらいましょう。

叔父が経営する木材屋は不動産を複数所有(賃料収入が安定的に入ると見込んでいたのが要因だと思います)していたので、私的整理でなんとか乗り切った過去があります。

3-2.法的整理

法的整理とは、裁判所を利用した倒産手続きです。会社を存続させる「再建型」の手続きと会社を消滅させる「清算型」の手続きがあります。

再建型の手続きには「民事再生」と「会社更生」があり、清算型の手続きには「破産」と「特別清算」があります。

以下でそれぞれについてみていきましょう。

3-3.民事再生

民事再生は「民事再生法」という法律に従って進める企業再建型の倒産手続きです。

民事再生をすると、負債を大幅に減額してもらえます。減額された負債を定められた期間内に返済できれば残りの負債が免除されるので、苦しくなった企業でも息を吹き返せます。

民事再生は企業を残す手続きなので、営業を継続できます。経営陣も残留できるので、社長が自分で企業を再建できるメリットもあります。私的整理のように「債権者による個別の同意」は不要なので、減額に同意してくれない債権者がいても負債を一気に減額できる可能性があります。

ただし民事再生には一定以上の債権者による同意が必要です。多くの債権者が反対すると「再生計画案」が認可されないので負債が減額されず、失敗します。また負債額が多すぎたり状況が複雑だったりすると、破産手続きに移行される可能性もあります。また「一部の債権者のみを対象にする」のは不可能です。取引先にも負債があれば、取引先への負債も減額対象になるので迷惑をかけてしまいます。

さらに弁護士費用や裁判所へ支払う予納金が必要なので、まとまった金額の出費が発生します。金額は事案の規模によって大きく異なります。

民事再生のメリット

  • 大幅に負債を減額できる

民事再生のメリットは、裁判所の力を得て大幅に負債を減額できることです。私的整理では減額とはいっても利息をカットしてもらえる程度だったりしますが、民事再生に成功すると元本を含めて10分の1程度にしてもらえる可能性もあります。また個別の債権者による合意が不要なので減額に成功しやすい点もメリットとなるでしょう。

  • 会社や資産を残し、自分たちの手で再生できる

民事再生は会社を残せる手続きです。計画通りに負債を支払って手続きを終えられれば、事業を拡大して大きく飛躍できる可能性もあります。

また旧経営陣が残って自分たちの手で起業を再生できる点も魅力となるでしょう。

3-4.会社更生

会社更生も再建型の倒産手続きの1種です。「会社更生法」という法律にもとづいて手続きを進めます。

会社更生の場合、民事再生とは違って裁判所が選任した「更生管財人」(弁護士)が主導して手続きを進めます。基本的にスポンサーを見つけて経営を引き継いでもらう手続きなので、会社自体は残せますが、社長が会社を再建させることはできません。

裁判所に納める予納金も2000万円を超えるケースなどもあり、非常に高額です。

会社更生を利用するのは、大規模な企業再編などを必要とする大企業の倒産案件が主です。中小企業の倒産手続きでは残念ながらほとんど利用されていないようです。

3-5.破産

破産は代表的な清算型の倒産手続きです。破産法にもとづき、裁判所に申立てをして負債をすべて消滅させます。金融機関からの借入金だけではなく取引先への負債、リース債権、手形債権、従業員への給料など、あらゆる負債の支払い義務がなくなります。会社の税金や健康保険料なども支払う必要がありません。会社の破産後に社長個人が会社の負債や滞納税などを払う義務も残りません。

ただし破産すると、これまで得てきた有形無形の資産や信用などもすべてなくなるので、経営者にとっては覚悟が必要となるでしょう。

私の父も数多くの保険や共済にはいっていましたが、全てなくなりました。予想通り、精神的なダメージもかなり大きかったです。

個人保証している場合

中小企業の社長は、会社の負債を保証しているケースが少なくありません。税金について保証している方もおられます。

このように社長が個人保証していると、会社が破産しても社長の「保証債務」が残ってしまいます。社長の個人資産から負債を支払えない場合には、社長も共に破産しなければなりません。そうなると社長個人の不動産や預金などの財産も失われます。

そして、気をつけたいのが、税金等の債権は支払い義務免除の対象となりませんので、破産したとしても支払いの義務は残ります。

また、企業規模が小さいほど、社長の保証の提供割合が高くなる傾向があります。

中小企業庁委託「平成24年度個人保証制度に関する中小企業の実態調査」(2013年3月、株式会社リベルタス・コンサルティング)によると、20人以下の小規模企業では実に88%もの企業で社長が個人保証をしていました。

もしかすると社長個人や経営に携わる息子、兄弟に「個人保証」をお願いしている場合もありますので、会社を破産させるときには「個人保証」には気をつけてください。

破産のメリット

経営者の多くは破産を避けたいと考えているものですが、破産には以下のようなメリットもあります。

  • 苦しい経営から解放される

会社の経営状況が苦しくなると、経営者は極めて困難な状況に追い込まれます。来月は負債を支払えるのか、従業員への給料を出せるのかなど、考えて夜も眠れなくなる方もおられるでしょう。会社を破産させてしまえばこういった苦しみから解放されます。

将来性がなく今後も業績改善の見込みがないなら、早めに見切りをつけて倒産させることでこれ以上の苦しみから解放されることもあります。

  • 新しい人生を踏み出せる

会社を倒産させても、必ずしも社長個人が破産する必要はありません。その場合、社長の財産も維持されますし、倒産手続き後に別の仕事をして人生をやり直せます。

一方、個人保証をしていて社長が同時に破産しなければならないとしても、破産手続きが終われば破産者としての制限は及ばなくなります。過去に破産していても就職や転職は自由にできますし、新たな起業も可能です。

また、海外旅行にいけない、引っ越しもできなくなるというのも誤解です。きちんと免責を受けられたら自由に旅行や移動ができます。破産者だからといってビザが下りないケースも通常はありません。

ただし、賃貸物件を借りる際に、保証会社を利用が必須の物件の場合は注意が必要です。オリコ、セディナ、エポス等の信販系の賃貸保証の審査には自己破産後直ぐでは、確実にNGです。ただ、自己破産後5年〜7年でデータは個人信用情報機関から消えると言われています。

私の場合は当時、就職して数日でしたが、予定年収が記されている会社からの在籍証明書、知人が保証人になってくれたお陰で父の代わりに両親の住居を確保することができました。

住居の確保でお困りでしたら、いつでもご相談いただければと思います。

3-6.特別清算

特別清算は、債務超過のおそれのある企業が行う特別な清算手続きです。裁判所に申立をして「清算人」を選任し、手続きを進めます。清算手続きの1種なので会社は消滅します。

裁判所の選任した破産管財人ではなく代表者が清算人として手続きを進められ、柔軟な対応が可能です。

ただし特別清算を終えるには一定以上の債権者による同意が必要です。債権者決議で否決されたら破産手続きに移行します。

4.倒産を検討している会社の不動産売却

企業が倒産の危機に瀕したとき、不動産の売却が必要になるケースが少なくありません。

所有する資産を売却して負債の返済にあてれば、倒産を防げる可能性もあります。

金融機関の抵当権がついている場合でも「任意売却」できる可能性があるので、諦めずにご相談下ください(銀行によっては協力的でない、認めないところもあります)。任意売却に成功すれば、売却金によって債務を支払えるので負債額を大きく減らすことも可能になります。

負債を返済せずに放置していると、金融機関が抵当権を実行して競売にかけてしまいます。そうなったら市場価格より大幅に低い金額で取引されるケースがあるので、負債があまり減らず倒産へと一直線に突き進んでしまうリスクが高まります。支払いが苦しくなったとき、早めに任意売却を決断することが倒産を防ぐポイントにもなります。

また民事再生や破産手続きを進める際にも、不動産の通常売却や任意売却が必要になるケースが少なくありません。

最後に

私の父は、破産したことで「今まで積み上げてきた財産」をすべて失いました。また、何より「社長としての自信」も完全に失ってしまいました。しかし、今までの人生で出会った友人や社員の方々、銀行の担当者の方とは未だにご縁をいただいています。

今ではあのとき倒産を決断してくれて良かったとも思います。

沢山の方にご迷惑をおかけしたのは間違いない事実ですが、命があり、また、小さくても会社を経営していこうと思う気力が芽生えた事をただただ嬉しく思います。

孫7人に囲まれている人生をあのときは想像もしていなかったようですが、白血病を患っても医療技術の進歩のお陰で落ち着いています。

どうか、倒産=人生の終わり とは思わないでください。

命さえあれば、きっと良いことがあります。

ご相談等ありましたら、実体験もお話させていただきますので、お気軽にご相談ください。