住宅ローンを返せなくなって長期にわたって滞納していると、どうなるかご存知でしょうか?

家が競売でなくなることは有名ですが、最終的に「自己破産」しなければならないリスクも発生するので注意が必要です。

ただ、必ず自己破産が必要なわけではなく、早い段階できちんと対応すれば破産を避けられるケースもあります。
また、万が一、自己破産する事を決断したとしても、世間で思われているほどのデメリットはないので正しい知識を持っていただきたいと思います。

今回は住宅ローンを払えない場合に自己破産が必要な場合や破産を避ける方法、自己破産のメリットやデメリットについて詳しく解説してきます。

1.自己破産とは

自己破産とは、裁判所によってすべての負債を免除してもらう債務整理の手続きです。

自己破産が成功すると、裁判所から「免責」を受けられます。
免責とは「負債を免除する」決定です。

無事に免責を受けられたら、住宅ローンを含めた負債が基本的にすべて免除され、一切支払う必要がありません。
住宅ローン以外に消費者金融やカードローンを利用してしまった方は、そういった負債も返済不要となるのでメリットが大きくなるでしょう。

ただし、注意していただきたいのは、全ての負債がなくなる訳ではありません。
税金や健康保険料、罰金などの公的な支払いや養育費など、一部の負債は残ります。

固定資産税・・・毎年1月1日現在の所有者に支払義務があります。自己破産をしても免責の対象とはなりませんので,固定資産税の支払義務は残ります。

自己破産をすると、財産が失われるので家や車、預貯金や生命保険などはすべてなくなると考えましょう。
ただし生活に必要な最低限の財産は残せますし、給料などは全額受け取れるので「生活ができなくなる」わけではありません。

住宅ローンを滞納していると、すべてではありませんが場合によっては、最終的に自己破産しなければならないケースがあります。

2.住宅ローンを払えなくて自己破産が必要なケース

何度もお伝えしますが、住宅ローンを払えなくなっても、全員が自己破産しなければならないわけでは決してありません。
自己破産が必要なのは「支払不能」になってしまった場合だけです。

支払不能とは・・・「収入や資産と負債の状況から、今後継続して支払うのが困難な状態」です。

住宅ローンを払えなくなっても、家が高く売れてローンを完済できれば自己破産する必要はありませんし、任意売却という方法もあります。

自己破産が必要になるのは、以下のような場合です。

2-1.家が競売になり、その後も高額な住宅ローンが残った

住宅ローンを払わずに放置していると、保証会社が金融機関に「代位弁済」を行ってその後は保証会社が債権者となります。そして保証会社は裁判所に「競売」を申し立てます。

競売になると、家が強制的に売られてしまいます。

ただ競売ではあまり家が高値で売れないので、住宅ローンを完済できないケースが多数です。
競売後に残った住宅ローンは債務者が返済しなければなりません。

保証会社から支払いを請求されても残ったローンを払えなければ、自己破産が必要です。

具体例

Aさんは3,000万円の住宅ローンを組み、払えなくなって放置していました。
競売が起こって家は1,500万円で売れましたが、残ローンが1,300万円以上残りました。
競売後、保証会社から遅延損害金を含めた1,500万円の一括払いを請求されましたが、払えないので自己破産しなければなりませんでした。

私自身(榎本の実家)も父が自己破産をして、自宅を手放すことになりましたが、父の心の傷は別として、その後の日常生活に大きな支障はありませんでした。

ただ、破産した人の名義で家を借りることはハードルが高いので、家族が代わりに契約者になったり、家族で支え合う必要があります。

2-2.住宅ローンを払えないので消費者金融やカードローンを利用して高額な負債を背負ってしまった

住宅ローンを支払えなくなると、資金集めのために消費者金融やクレジットカード、カードローンなどを利用してしまう方も多数おられます。

その場合、住宅ローンだけではなく消費者金融などの借金が首を絞めます。
たとえ競売や任意売却によって住宅ローンをほぼ完済できても、消費者金融などの借金を返せなければ自己破産が必要になります。

具体例

Bさんは2,000万円の住宅ローンを組み、払えなくなったので消費者金融などで500万円程度、借金をしてしまいました。
それでも返せないので最終的には競売になり、家は1,500万円で売れて住宅ローンが100万円残りました。

100万円だけなら何とか返済できるのですが、消費者金融などの借金と合わせると1,000万円近くになっており、支払えないので自己破産せざるを得なくなりました。

3.住宅ローンを払えなくても自己破産しなくて良いケース

住宅ローンを払えなくなっても自己破産しなくて良いケースがあります。
それは以下のような場合です。

3-1.任意売却で高く売れてローンを完済できた

住宅ローンを払えなくなっても、必ずしも競売になるとは限りません。
金融機関の承諾を得られれば「任意売却」が可能です。
任意売却をすれば競売よりも高額で売れる可能性が高く、残債務を大きく減らせます。

上手に買主を見つけて良いタイミングで高く売れれば、住宅ローンを完済できて自己破産の必要がなくなります。

具体例

Cさんは6,000万円の住宅ローンを組み、払えなくなったので消費者金融などで1,000万円程度、借金をしてしまいました。また、住宅ローンの支払いを2度遅延したタイミングで売却の相談がありました。

幸いCさんの所有する物件は目黒区にある人気エリアでした。
売却後は3,000万円近くの現金が手元に残り、全ての借入を返済することができました。

3-2.任意売却後、分割返済が可能となった

任意売却をしても、住宅ローンを完済できないケースはあります。
その場合でも、金融機関は分割払いを認めてくれるのが通常です。

残ローンを大きく減らして残った少額のローンを分割払いできるなら、自己破産の必要はありません。

3-3.保証会社と話し合いをして返済できた

競売が行われた場合でも、自己破産が必要とは限りません。
残ローンが少額な場合には一括で支払える場合もありますし、きちんと話し合えば分割払いを認めてもらえる可能性もあります。

競売後、自力で住宅ローンを返済できれば自己破産の必要はありません。

以上のように住宅ローンを払えなくなっても自己破産しなくていいケースもありますので、簡単にあきらめる必要はありませんし、自己破産を選んだ方がいい場合もあるので、お悩みの方は専門家(弁護士)をご紹介させていただきます。

4.自己破産のメリットとデメリット

自己破産を避けられない場合にそなえて、手続きのメリットとデメリットを正確に知っておきましょう。

4-1.メリット

負債が全部免除される

自己破産の最大のメリットは、負債が全部免除されることです。
残った住宅ローンがどれだけ多額でも全額免除されますし、消費者金融やクレジットカード、未払いの家賃や車のローン、奨学金まで免除されます。

負債額が3,000万円や5,000万円以上でもすべて支払いが不要となるのは大きなメリットとなるでしょう。

差押えを防止、予防できる

借金を滞納していると給料などを差し押さえられる可能性がありますが、自己破産を開始したら差押えを止められます。
また破産手続き開始決定後は新たに差押えができなくなりますので、破産後に得る収入を取られる心配がなくなります。
滞納期間が長引いて差押えが心配な方にはメリットが大きいでしょう。

4-2.デメリット

財産がなくなる

自己破産の大きなデメリットは、財産が失われてしまうことです。
家はもちろんのこと、預貯金や生命保険、車や株式など、目立った財産はすべてなくなります。

ただし99万円程度までであれば手元に残して破産できますし、破産後の財産取得は自由です。

資格制限がある

自己破産をすると「資格制限」が課されます。
資格制限とは一定の職業や資格に対する制限です。
制限対象の仕事についている場合、一定期間仕事ができなくなってしまう可能性があります。

資格制限の対象になる職業はたくさんありますが、一例を挙げると以下の通りです。

  • 弁護士、税理士、司法書士、行政書士などの士業
  • 調理師
  • 騎手
  • 生命保険の外交員
  • 警備員
  • 宅建業
  • 貸金業
  • 質屋
  • 産業廃棄物処理業者
  • 卸売業

制限を受ける期間は3か月~半年程度です。
制限を受けない職種の方は気にする必要はありません。

免責不許可事由がある

自己破産には「免責不許可事由」があります。
免責不許可事由に該当すると、免責してもらえないので借金がなくなりません。

たとえば浪費やギャンブル、多額の投資などは免責不許可事由になるので、こうした行動のあった方は自己破産時に問題になる可能性があります。

ただし実際には、しっかり反省して生活を改めていれば免責してもらえるケースが多数です。
破産法により、裁判所は「ケース全体の状況を見て、裁量によって免責を認めても良い」ことになっているからです。

このように裁判所が特別に免責を認める制度を「裁量免責」といいます。

4-3.自己破産についてよくある誤解

自己破産をすると以下のようなデメリットがあると思われていることがよくありますが、誤解です。

戸籍や住民票などの公的書類には載るという誤解

自己破産をすると、戸籍謄本や住民票、運転免許証やパスポートなどに「破産者」などと書き込まれると思っている方がいますが、誤解です。

これらの公的書類には一切記述されません。
結婚相手などに知られる心配も通常はありません。

周囲に知られるとは限らない

自己破産をすると、「家族や会社、友人、実家の両親や親族などに知られる」と心配される方も多数おられますが、それも誤解です。

自己破産しても周囲に通知されません。

会社や別居の家族、友人知人に知られることはありませんし、同居の家族にすら秘密で自己破産している方もいらっしゃるようです。

しかし、個人的には家族には相談して、一緒に大変な時を乗り切ってほしいと考えています。

当時23歳の私も誰が住まいを確保するか、どう生活していくか等、全員が当事者意識を持って家族全員で話し合いました。

海外旅行や引っ越しに制限はない

自己破産すると海外旅行や引っ越しができなくなると思っている方もいますが、それも誤解です。きちんと免責を受けられたら自由に旅行や移動ができます。
破産者だからといってビザが下りないケースも通常ありません。

就職は可能で特に不利にならないケースが多い

自己破産すると、就職に不利になることが心配という方もいます。
ただ求職先に過去の自己破産を知られる可能性は極めて低いですし、免責が下りたら資格制限はなくなります。

就職できない、不利になるといった事態も通常は発生しないので、今後就職・転職する方も心配しすぎる必要はありません。

ブラックリストというリストは存在しない

2〜3ヶ月以上の支払いや借金返済の遅延がある場合、金融機関から信用情報機関に「事故情報」を追加するように依頼があります。

このような場合、別の金融機関から新たな借り入れをしたり、クレジットカードを作ることが難しくなります。

信用情報機関のデータベースに「事故情報」がのってしまうことを「ブラックリストにのる」といいます。

ブラックリストというリストが存在する訳ではありません。

5.自己破産を避ける方法

そうはいっても、できれば自己破産を避けたい方が多いでしょう。

住宅ローンを払えなくなって自己破産を避けるには、早めに任意売却をする方法が最善です。

5-1.任意売却とは

任意売却とは、金融機関の承諾を得て不動産を市場で売却する方法です。

住宅ローンを払えなくなって放置していると、競売になります。
競売では家が安値でしか売れないので、どうしても残ローンの金額が大きくなってしまいます。
また保証会社から残ローンの一括払いを請求される可能性が高くなり「払えない状態」になりがちです。

任意売却なら通常の不動産市場で家を売却できるので、比較的高く売れます。
その分多くの住宅ローンを返済して残ローンを減らせますし、残ったローンについても分割払いを認めてもらいやすいので返済が容易になります。

自力で返済できるなら自己破産する必要がないので、任意売却すれば自己破産を避けやすくなるのです。

5-2.任意売却の期限

住宅ローンを払えなくなったとき、いつまでも任意売却できるわけではありません。

競売手続きが開始してしまったら「開札日の前日」までに任意売却を終える必要があります。

競売開始後開札日までの期間はだいたい4~6か月くらいです。

早めに取りかからないと任意売却できなくなり、自己破産せざるを得なくなる可能性が高まるので注意しましょう。

6.自己破産を避けられないケースでも任意売却するメリット

失業して無収入となった方や消費者金融などで借金がかさんでいる方、残ローンが高額過ぎる方などは、任意売却しても自己破産を避けられない可能性があります。

その場合でも、自己破産前に任意売却するメリットがあります。

明らかなオーバーローン物件でも、任意売却で予想外に高額で売れればローンを完済できる可能性がありますし、あまったお金を消費者金融やカードローンの返済に回すこともできます。

また自己破産には「同時廃止」と「管財事件」という2種類の手続きがあります。
同時廃止は財産がない場合の簡単な手続きで費用も手間も小さくなります。
管財事件は財産がある人の複雑な手続きで高額な費用と手間がかかります。

自己破産前に任意売却で家をなくしておけば、「同時廃止」になって費用や手間のコストを大幅に低くできるメリットがあります。

7.まずはご相談ください

住宅ローンを払えなくなっても任意売却すれば自己破産を避けられる可能性がありますし、万一自己破産が必要となっても事前に任意売却しておくメリットがあります。

ただし任意売却には期限もあるので、できるだけ早く開始しましょう。

一人で悩まず、少しでも多くの選択肢の中から最善の方法を選択できるように法律の専門家である弁護士も交えて、一緒に考えていきたいと思います。