「住宅ローンが支払えない!」

そんなとき、あなたならどうしますか?

家族に相談。自分だけで抱え込んでしまう。あるいは銀行員に相談する。

住宅ローンの支払いが苦しくなったら、まずは専門家(詳しい弁護士や不動産会社)に相談してください。

住宅ローンの返済が滞れば“競売”を避けられません。競売になると家を差し押さえられ強制退去を迫られ、それでもなお多大な債務が残る可能性があります。

競売を避けるための方法は「任意売却」です。ただし任意売却には期限があり、期限までに任意売却できないと競売を避けられません。

本記事では住宅ローンを払えなくなったときの対処方法について、任意売却を中心にわかりやすく解説していきます。

1.住宅ローンを払えなくなったらどうなる?

住宅ローンを払えなくなったとき、放置していると以下のような状況が発生します。

  • 督促が来る

期限までに引き落としができないと、金融機関から支払いの督促が来ます。

  • 保証会社が代位弁済をする

滞納後3か月~半年くらい経つと、保証会社が金融機関に残ローンと遅延損害金の一括立て替え払いをします。これを「代位弁済(だいいべんさい)」といいます。

  • 保証会社から督促される

保証会社が代位弁済すると、保証会社は債務者へローンの一括請求をしてきます。

  • 競売を申し立てられる

債務者が支払いをしないと、保証会社は裁判所に「競売」を申し立てます。

  • 裁判所から競売の通知が来る

競売が始まったら裁判所から債務者の元に「競売通知」が届きます。

  • 裁判所の執行官が現地調査に来る

その後、裁判所の執行官が自宅にやってきて事情を聞いたり写真撮影したりします。

  • 家が他人のものになる

競売手続きが進み、買い受け人によって落札されると最終的に家が落札者のものになります。このときまでに家を退去しなければなりません。もしも家から出て行かないと、強制退去させられる可能性もあります。

  • 残ローンを請求される

競売によっても負債を全額返済できなかった場合には、保証会社が残ローンを請求してきます。支払いができなかったら自己破産しなければならない可能性もあります。

住宅ローンを返せずに放置していると、競売によって強制的に家が売られてしまいます。さらには自己破産しなければならない可能性もあり、不利益がとても大きくなります。

そうなる前に「任意売却」で不利益を小さくしましょう。

2.任意売却とは?

任意売却は、銀行などの債権者に「住宅ローンを支払えませんが、物件を売却させてください」とお伺いをたて、許可をもらって不動産を売却する対処方法です。

2-1.抵当権がついていると基本的に売却は難しい

住宅ローンを利用する場合、通常金融機関は自宅に「抵当権」をつけます。抵当権とは、いわゆる「担保」です。債務者がきちんと住宅ローンを支払わない場合、抵当権を持つ債権者は自宅を強制売却(競売)して売却金から未払いのローンを回収できます。

抵当権とは?わかりやすく解説します!

抵当権つきの不動産は基本的に所有者の自由意思で売却できません。そもそも抵当権のついた物件を買おうとする人はほとんどいませんし、金融機関の担保をつけている以上、金融機関に無断で売却できないのです(そのようなことをすると契約違反となります)。住宅ローン付きの物件は、基本的に住宅ローンを完済するまで売却できません。

2-2.任意売却なら売却可能

任意売却は上記原則の例外です。どうしても住宅ローンを支払えないとき、債権者の許可を得られれば不動産の抵当権を抹消してもらい、物件を売却できます。

ただし任意売却の許可をもらったからといって競売手続きがストップするわけではありません。落札者が決まるまでには任意売却を終了されないと、競売によって家が失われてしまいます。住宅ローンを滞納したら、早めに任意売却を進めましょう。

3.競売と比較した任意売却のメリット

3-1.高く売れる

任意売却の最大のメリットは、「競売より高額で売れる可能性が高いこと」です。競売の場合、売却金額が市場価格より大幅に安くなります。競売では以下のようなさまざまなリスクがあるからです。

住宅ローンを利用しにくい

落札前に物件を確認できない

管理費や修繕積立金などが滞納されている可能性がある

落札価格は市場価格の5割程度となってしまう例も珍しくありません。
(※最近ではエリア、物件によっては高値で取引される場合もありますが・・)

一方、任意売却なら市場価格に近い金額での売却が見込めるので、残ローンを多く返済できます。残ローンを減らせれば任意売却後の支払いも楽になりますし、自己破産を避けられる可能性もあります。

3-2.プライバシーを守れる

競売になると、全国に物件情報が公開されます。誰でも情報を見られる状態になるので、周囲の人に知られる可能性も発生します。また購入を希望する不動産業者が自宅近隣に来て近所の人に聞き込みを行ったりするケースも多く、隣人に不審に思われ噂になる可能性もあります。

任意売却なら普通に不動産市場で売り出すだけなので、プライバシーが害される心配はありません。

3-3.引っ越し費用を出してもらえる

自宅が競売で強制的に売却されたら、当然債務者の引っ越し費用は出してもらえません。

任意売却なら30万円程度の引っ越し費用を出してもらえるケースもあります。

3-4.分割払いできて自己破産を避けやすい

競売後、ローンが残ったら保証会社や金融機関からは「残額と遅延損害員の一括請求」をされるケースが多数です。すると、いよいよ自己破産が現実化してしまいます。

金融機関と協同して任意売却を成功させた場合には、手続き後に分割払いを認めてもらえるケースが多く、自力返済しやすくなります。

身近な例で言うと、月に3000円ずつ支払い、数年後に200万円で残債を完済という手続きを取られた方もいました。

3-5.家に住み続けられる可能性もある

任意売却の場合「リースバック」という方法を利用すれば家に住み続けられる可能性があります。リースバックとは、家の新しい所有者から家を借りる方法です。たとえば不動産会社に買い取ってもらって賃借したり、親族に買い取ってもらって住まわせてもらったりできます。

競売の場合、家に住み続けることは不可能で強制退去の可能性もあります。

ただし、リースバックの場合、買取価格があまりにも安い場合はよく考える必要があります。

4.任意売却のデメリット

任意売却には以下のようなデメリットがあります。

4-1.手間がかかる

任意売却には金融機関の承諾が必要です。また不動産会社に売却の仲介を依頼し、買主を探して売買契約を締結しなければならないなど、手間が発生します。競売なら放置しているだけなので手間はかかりません。

4-2.希望通りに売れるとは限らない

任意売却をしても、必ず希望通りに売れるとは限りません。売却価格が思ったより低くなる可能性もありますし、買主が見つからないケースもあります。

4-3.期限がある

任意売却には「期限」があります。競売が開始して半年程度が経過したときに行われる「開札」までに債権者に競売を取り下げてもらわないと、任意売却はできなくなります。

任意売却で少しでも物件を高く売り、自己破産などの不利益を避けるには「住宅ローンを滞納したときの早めの対応」が肝心です。

5.任意売却の方法と流れ

任意売却をしたいときには、以下のように進めましょう。

5-1.不動産会社に査定をとる

まずは不動産会社に依頼して物件価値の査定を行います。金融機関に任意売却の許可を得るには物件がどのくらいで売れそうか明らかにする必要があるからです。

5-2.金融機関から了承を得る

査定をとったら借入先の金融機関に打診して、任意売却の承諾を得ます。承諾を得られなかったらそもそも任意売却できないので、このときの対応は非常に重要です。

通常は不動産会社が交渉を行うので、任意売却の交渉に長けた業者に任せると安心です。

5-3.売り出し

金融機関から許可が出たら、物件を売り出します。売り出し価格は事前に不動産会社や金融機関と相談して決定します。

この間、不動産会社は随時オーナーだけでなく、金融機関にも販売活動の定期報告をする必要があります。

5-4.売買契約

内見などの対応を行い、購入希望者が現れたら任意売却物件であることを伝えた上で、売買契約を締結します。通常通り手付金の授受なども行いますが、手付金は不動産会社が預かります。

5-5.売却金の配分調整

任意売却の場合、引渡しまでの間に、債権者への配分や仲介手数料、登記費用、引っ越し費用などの調整をして金融機関から承諾をとります。こうした配分調整は不動産会社が行います。

5-6.決済、残債の返済

決済が行われると、売却金から金融機関へ残ローンが支払われます。引っ越し費用が支払われる場合、このタイミングで受け取れます。

5-7.残ローンの返済

結果として債務が残った場合、残ローンを支払っていかねばなりません。ただ任意売却の場合、金融機関から分割払いが認められる可能性が高いので、無理のない返済計画を立てやすくなっています。

6.競売の流れ

一方競売になるとどういった流れになるのか、簡単にみておきましょう。

6-1.競売開始決定通知

保証会社が競売を申し立てると、裁判所から競売開始決定通知が届きます。

6-2.現況調査

競売開始決定から1か月ほどが経過すると、不動産鑑定士や裁判所の執行官が物件調査にやってきます。調査は“強制”なので、居住者は拒否できません。状況を聞かれたり内部の写真を撮られたりします。

6-3.入札通知

現況調査が終わると「最低入札価格」と「入札期間」などが決まり、債務者宛にも通知書が届きます。また「競売物件」として、ネット上や裁判所で物件の住所や写真などが全国に公開されます。

6-4.落札

入札期間が終わると開札が行われます。任意売却は、この「開札日の前日」までに終える必要があります。

6-5.物件の引き渡し、退去

落札者が決まったら物件から退去しなければなりません。また売却金額は優先的に債務の返済に充てられるので、引っ越し費用などは受け取れません。いつまでも居座っていると「強制退去」させられる可能性もあります。

6-6.一括請求

競売では物件が安くしか売れないので、高額な残債が残ってしまう可能性があります。しかもそれについては通常「一括返済」を求められます。残債を支払えない場合、給与や預貯金などが差し押さえられる可能性もあり、最終的に自己破産に追い込まれてしまうケースも少なくありません。

7.任意売却以外に競売を避ける方法

住宅ローンを払えなくなったとき、任意売却以外にもいくつかできることがあるのでご紹介します。

7-1.住宅ローンを借り換える

「あと少し月々の負担が減ればなぁ…」

「住宅ローンの条件が悪い」

こういった方におすすめなのは、住宅ローンの借り換えです。

・金利が高いときにローンを組んだ

・お金に余裕があるときに借り入れたので、返済期間を短くしてしまった

上記のような場合、今よりも金利の低い住宅ローンに借り換えたり、借り換えによって返済期間を長くしたりすれば、月々の負担が減って返済を継続できる可能性があります。

借り換えの場合、属性といって勤務先や勤務年数、年収、年齢によって変わってきますので、一概に借り換えできる訳ではありません。

7-2.住宅ローンのリスケジュール

リストラや病気、給与の削減などで、一時的に住宅ローンの返済が厳しい方は、金融機関に返済計画の見直しをお願いしてみましょう。返済計画の見直しは“借り換え”とは異なり、今のローンを“リスケジュール=スケジュールを組みなおす・計画を変更する“ということです。

リスケジュールに成功すれば、1年や2年間、利息のみの返済にしてもらえます。その間に状況を立て直すことができれば、家を売らずに返済を継続していけるでしょう。

7-3.住宅ローン特則付きの個人再生を申し立てる

住宅ローン付きの家を守る方法として「個人再生」があります。個人再生とは、裁判所に申立をして負債の金額を大幅に減額してもらう手続きです。

個人再生の「住宅ローン特則」を利用すると、住宅ローン以外のカードローンやクレジットカードなどの借金が大幅に減額され、住宅ローンのリスケジュールも可能です。

住宅ローン支払いが苦しくて、生活費などのために消費者金融やカードローンなどの借金をしてしまった方にとっては有効な方法となるでしょう。

また「住宅ローン特則」を利用すると、保証会社の「代位弁済」をなかったことにできます。代位弁済が行われて保証会社から一括請求されていても、代位弁済前の状態に戻して銀行へ分割払いが可能となります。

さらに「競売を中止」できるのも大きなメリットです。競売が始まったら時間との勝負になりますが、住宅ローン特則つきの個人再生なら競売を止めている間に安心して手続きを進められるでしょう。

個人再生が始まったら給与の差し押さえはできなくなりますし、すでに行われている給与差し押さえを止める効果もあります。

住宅ローンを払えなくて困っているときに個人再生は非常に有効なので、個人再生に詳しい弁護士に相談してください。

8.住宅ローンの滞納を防ぐために

そもそも住宅ローンの滞納を防ぎ「支払えない」状態を回避するため、以下のように対応しましょう。

8-1.無理な借入をしない

借入の際、無理な計画を立てないことが何より重要です。金融機関が貸してくれるからといって高額なローンを組み、毎月の給与の大部分を返済に充てる計画を立ててしまったら支払いが困難になるのは目に見えています。特に自営業者の場合、収入に変動があるのでめいっぱいに借りるのは危険です。「確実に返済できる範囲」で住宅ローンを利用しましょう。

私たちの思う返済できる範囲とは年収の7倍までの借入や月々のローン返済額が今まで払ってきた賃料と変わらない程度におさまっている状態です。

変動金利で借入をして、0.5%でも上がったら払っていけないという状況は危険です。

8-2.ボーナス払いを利用しない

住宅ローンには「ボーナス払い」がありますが、これも非常に危険です。ボーナスは何かあったときのために自由に使えるようにしておくべきです。ボーナス払いを利用すると住宅ローンを払えなくなる危険性が高まるので、利用はお勧めしません。

8-3.早めの対応が肝心

住宅ローンを払えないかも、と感じたとき、なるべく早く専門家に相談することが重要です。放置すればするほど遅延損害金が高額になり、代位弁済や競売が起こって取り返しがつかなくなっていきます。早い段階ならリスケジュールや任意売却も可能となります。

困ったときには不動産会社や弁護士など、知識とノウハウを持った専門家を頼りましょう。

最後に

私の家族も借金で苦しんだ過去があります。

私が22歳の時、父の経営する建設資材会社が45億円の負債をかかえて倒産しました。

会社の代表は常に会社と一心同体です。会社の経営が立ち行かなくなったら、まずは自分の資産をつぎ込みます。うちの父も例外なく、自宅や会社の敷地に担保をつけていました。

小さい時から、「銀行にお金を借りてるからこの家は借りものなのよ」と母に言われて育ちましたが、まさか会社がなくなる日が来るとは想像もしていませんでした。

倒産する少し前から、会社のキャッシュフローが厳しくなり、取引先が不当たりを出した月は資金繰りに苦労する父の姿を見ていました。

一度だけ、父が泣いている姿を見てしまった時があります。倒産する半年ほど前でした。

倒産する直前は、もう疲れ果てていました。

15年経って今思う事は、生きていれば、必ずいいことは訪れるということ。

あの時、自己破産をして、自宅や会社が競売にかかってしまった父の力にはなれなかったので、今は住宅ローンを支払えずに困っている方の力になりたいと思っています。

どうか、お一人で悩まずに、ご相談ください。解決策を一緒に考えていきましょう。