今回は、マンションの建て直しについて取り上げます。
日本最初の分譲マンションが建設されたのは、高度経済成長がはじまる前の1953年です。
その後、マンションの数は都市部を中心に増え続け、2021年末時点で685.9万戸にのぼります。
目次
老朽化が進むマンション
最初のマンション誕生から60年以上経過した現在、多くの建物で老朽化が問題になっています。
国土交通省の調査によると、全マンション654.7万戸の内の17%に当たる115.6万戸が築40年以上です。
建設から40年以上経過したマンションの中には、老朽化以外にも耐震性不足などの問題を抱えた建物が数多くあります。
しかし、そうしたマンションの建て直しは本当に進まないのが現状です。
2022年に建て直しが行われたマンション数は、270戸にすぎません。
この数は、築40年以上のマンション総数115.6万戸と比較すると、わずか0.023%です。
もちろん、築40年以上のマンションの中にも、適切な管理により建て直し不要な建物はあります。しかし、このままでは将来懸念されるのが、マンションの老朽化に対して「建て直し」が追いつかなくなることです。
事実、国土交通省によると、築40年以上のマンション数は、2031年には249.1万戸、2041年には3.7倍の425.4万戸に達すると見込まれています。
参照元:国土交通省:分譲マンションストック戸数(マンション総戸数の推移)
なぜマンションの建て直しが進まないの?
それではなぜこんなに築40年を過ぎたマンションが存在しているにもかかわらず、マンションの建て替えが積極的に進まないのでしょうか?
マンションの建て直しが進まない原因として考えられる大きな3つの問題があります。
1.建て直しの同意の問題
マンションの建て直しには、全区分所有者の5分の4以上の同意が必要となります。
しかし、同意を取る上で大きなネックになるのが、所有者の高齢化です。
国土交通省の調査でも築年数が経過したマンションほど、高齢化が進んでいることがわかります。
築40年以上のマンションでは、世帯主の実に半数近くの48%が、60歳代以上のみの世帯です。
多くの場合、所有者がご高齢になると、子供さんや親戚などの同意を取る必要があります。
そして、ご高齢の方にとっても、建て直しに伴う2回の引っ越しは大きな負担となるので、このままが一番いいと考える人も多いのではないでしょうか。
また、その他にも所有者が部屋の賃貸経営をしている場合は、利害関係から話がまとまりにくいという問題もあります。
参照元:国土交通省:マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状
2.建て直し費用の問題
建て直しにかかる、住民1人当たりの費用の、おおよそのめやすは1000万円です。
それに2回の引っ越し費用や、建て直し中の賃貸料金などの諸経費を加えると、1400万円程度かかると言われています。
この金額は、年金生活の高齢者の方をはじめ、多くの方にとって大きな出費になります。
そして、建て直し費用を新築時から積み立てたとしても、難しいのが現状です。
仮に、築40年で立て直す場合、単純計算すると1か月当たり2万9千円、1年で35万円の負担となります。
さらに、この費用とは別に、従来の管理費と修繕積立金も必要です。
3.容積率の問題
建て直し費用の不足分を調達する方法として、延床面積を増加して戸数を増やす方法があります。増えた戸数を新たな入居者に販売することで、建て直し費用を補う方法です。
建て直しに成功したマンションでは、資金調達によく使われています。
しかし、この方法が使えるのは、法律で定められた容積率に、余裕がある場合だけです。
現在の建物が、容積率ギリギリの場合は、現在の戸数と専有面積を維持するのが精一杯で、この方法は使えません。
さらには、法改正により建て直し後の容積率が、これまでより小さくなる建物もあり、この問題に拍車をかけています。
難航するデベロッパー探し
上記の3つの問題をクリアした上でマンションの建て替えには協力してくれるデベロッパーを探す必要があります。
そして、これがまた大変なステップです。
建替えに参入するデベロッパーにとって、建て替え後に新築マンションとして販売する上で(既存区分所有者さん以外の住戸)建築、設計費、利益などが見込めないと、建替え事業が成立しないのです。
希少価値のあるエリアや駅近の物件の場合、うまく行けばデベロッパーが手を上げる場合もありますが、駅から遠いバス便利用の物件だと協力してくれるデベロッパーを探すことは非常に困難です。
弊社が以前管理していた代々木上原駅前物件の場合(2024年現在、既に売却済)、複数のデベロッパーが候補として上がっていましたが、このようなケースは非常に稀です。
マンション建て直しに関連する法律
そこで、マンションの建て直しをスムーズに行うために、定められたのが「マンションの建替え等の円滑化に関する法律(以下:マンション建替え法)です。この法律は2002年に、耐震性の不足したマンションの立て替えを主な目的として施行されました。
その後、マンション建替え法は、東日本大震災を受けて2014年に一部改正され、以下の2項目が追加されました。
マンション敷地売却制度の創設
区分所有者の5分の4以上の賛成で建物と敷地の売却が可能
※改正前は、全区分所有者の同意が必要
容積率の緩和特例の創設
耐震性不足の認定を受けたマンションを立替える場合、条件を満たせば容積率を緩和
敷地売却制度により老朽化したマンションを、解体して売却する場合のハードルが下がりました。また、容積率の緩和特例で、建て直し資金の調達しやすくなりました。
参照元:国土交通省資料:ご存じですか?「マンション建替法」改正について
リノベーションする前に必ず確認したい「建て直し計画」
建て直しは、リフォームを検討されている方にとっても重要事項となります。
特に、リノベーションを予定されている方にお伝えしたいのが、中古マンションを買う前に必ず「建て直し計画」について確認していただきたいことです。
もし数年以内に建て直し計画があった場合、高い費用をかけたリノベーションが、ムダになってしまいます。
リノベーション後に、建て直し計画を知った場合、管理組合側にとっても買い主にとっても、デメリットしかありません。
建て直しは、買い主である区分所有者1人1人の責任で行うものです。
ですので、こうした「最悪の事態」を避けるためにも、リノベーション前に必ず管理組合に「建て直し計画」について必ず事前に確認しましょう。
まとめ
今回は、マンションの建て直しについて取り上げました。
建て直しの同意をスムーズに取るためには、普段からの住民同士のコミュニケーションが必要不可欠です。
しかし、マンションには考え方もそれぞれ違う人が共同して住んでいるので、意見をまとめて建て直しを進めるのは難しいのが現状です。
事実、冒頭の日本最初の分譲マンションは、2016年に建て直しが行われましたが、発案から意見をまとめて工事を開始するまでに、なんと…25年もの年月を要しています。
ですので「そんな煩わしいことはしたくない!」と思われる方は、マンションに一定期間住んだら、建て直し時期が来る前に、住み替えていくのが無難でしょう。とアドバイスをしています。
また、リノベーションを検討されている方も、「建て直し計画の確認」を、必ず行っていただきたいと思います。